自転車であおり運転?の912号

  ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━┫ 週刊 自転車ツーキニスト ”Weekly Bicycle Tourkinist” ┣━┓
┃ ┗┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳┛ ┃
┗━━┛                          ┗━━┛
        自転車であおり運転?の912号

■Yahoo!ニュースに「自転車あおり」

 改正道路交通法で「自転車にもあおり運転が適用される!」という、ちょっとセンセーショナルな記事がネットで話題になった。
 どうやら共同通信が元ネタらしいんだけど、次のようなものだ。

【自転車のあおり運転「危険行為」14歳以上、違反2回で講習(共同通信6月9日付)】
https://news.yahoo.co.jp/articles/c82485ba9661c843b2469232d7821fbc01e12524

 いや、ねぇ。あまりにキャッチーなタイトルで、私ヒキタはどうかとおもうんだけど、どうやら「自転車であおり運転」という文言は、共同通信の記者がつけただけなんだそうな。
 閣議決定された施行令には「あおり」についての言及はゼロ。
 まあ、そうだよな。記事にもあるとおり、14項目の危険行為について、2回の摘発で安全講習が義務となるのは従来通りでね(というのか単に法令違反で赤切符だ)。そこに「執拗なベルで云々」がくっついてきた。
 どうだろうな、他車両(クルマ?)に対して執拗なベルなどで妨害するって、んなヤツいるか(笑)と思うんだが、よくよく聞くと、1年前の事情がからんでることが分かってきた。

■ルーツは「桶川のひょっこりはん」?

 関係当局によると、遠因となったのは埼玉のとある事件だという。
「自転車で飛び出すかのごとく見せかけて、クルマに急ブレーキを踏ませて喜んでる常習犯がいて、そういう迷惑なヤカラを検挙したいんだ」とのことだった。
 あ、が。
 あれだ…。桶川のひょっこりはん…。
 昨年夏にほんの少しだけワイドショーを騒がせ、その直後に逮捕された。供述によると、単に「面白かったから」だそうな。
 本気で変質者である。
 だが、こういうバカのせいで、自転車に対する風当たりが不当に強まってしまう。
 じつは彼については昨年9月に「CYCLE SPORTS」誌に書いたことがあって、それを再掲する。今読んでも、結論は同じだ。

■自転車よもやま社会学「桶川のひょっこりはん」

 埼玉の桶川に、ドロップハンドルの自転車に乗った「ひょっこりはん」ってのがいましてな。
 テレビの朝ワイドなんかでちょっとだけ話題になったんで、憶えてらっしゃる人もいるかもしれないが、なんとも迷惑なヤカラだった。
 たとえばこうだ。
 アナタが片側1車線の道で、クルマに乗ってるとする。対向車線に何やら不審な自転車がいる。
 ドロップハンドルの白い自転車……、恐らくはピスト。乗ってるのは、金髪にサングラス、マスクを着けた、人相の分からない若い男だ。
 その自転車が、歩道側じゃなく、センターライン側をなんだかふらふらと走っている。
 アナタが、なんだこいつ、ちょっとヘンだな、と思った瞬間、キュッとハンドルをひねって、こちら側(つまり反対車線)にいきなり出てくるわけだ。
 当然、アナタは「わっ!」と驚き、急ブレーキをかける。
 すると、男は何食わぬ顔、というのか、涼しい顔でその場を去っていく……という寸法だ。何の目的があるのかは知らないが、この男が、このところ桶川に何度も出没しているという。常に同じことをする。目撃者多数。
 で、いつしかついたあだ名が「桶川のひょっこりはん」。

■スポーツバイクの面汚し

 なにこいつ(笑)。
 いや、笑いごとじゃない。「ひょこりはん」なんて、芸人のようなニックネームをいただきながら、じつは事故寸前、チョー迷惑な不届き者じゃないの。
 しかも、その行為の理由が判然としない。取材したテレビによると「この辺では有名。同じことされたという人は多い」「人がビックリするのを見るのが楽しいと言ってた」(街の人の証言)という。
 なんとも迷惑、早く逮捕されていただきたいと思うのだが、同時に、私などが思うに、こういうヤカラにドロップハンドルを握っていただきたくないのだ。
 もちろんスポーツバイク乗り、いや、自転車乗りのツラ汚しだから。
 こういうのがロードバイク乗りの代表格みたいに思われると、本気で迷惑だ。

■スタジオのネガティブ反応

 ひょっこりはんの愛車(?)、画像が粗くて、ロードだかピストだか判別しがたいんだけど、たぶん例のピストブームのときに流行ったやつだ。リアにディレイラーらしきものがついてない。
 こういうのがテレビに映ると、もう私はスイッチを切りたくなる。ただし、その理由は「こいつが不愉快だから」ばかりじゃない。「その後のスタジオの反応が即座に予想できるから」だ。
「最近、こういう自転車増えましたよね、なんていうんですか、ハンドルが曲がったスポーツタイプの」
「増えましたよ、都心でも。もう車道走ってて迷惑ですよね」
「だいたい自転車が車道を走ってもいいんですか?」
 ここでちょっと法律を分かったアナウンサーとかが口を出す。
「いえ、自転車は法律上は車道を走らなくてはならないと定められています」
 スタジオ一斉に「へーっ」と驚いたフリをし、話は次のように展開する。
「でも、危ないですよね、ああいうのが車道を走ってると」
「邪魔ですよ。なんか我が物顔に走られてると腹立ちますよ」
「今朝も見かけましたが、免許も持ってないのに車道を走るというのが不思議ですね」
 ……。
 ね、もう聞きたくないでしょ、アホらしすぎて。
 迷惑自転車野郎の話だったはずなのに、なぜか非難の矛先がスポーツバイク全般に向く。で、スタジオの識者と称する連中は、この程度の認識を披露するわけだ。
 そもそも自分自身は決して自転車に乗らず、いつも局が用意したハイヤーの後席に座ってるから、自転車が邪魔に思えて仕方がない。道路をシェアしようなんて考え方は微塵もない。
 自転車は邪魔。と、そういうご意見を恥ずかしげもなく表明する。その同じ口で「地球温暖化は問題」「差別はいけない」なんて言ってるわけなんだから、なにをか言わんやだ。
 ただ、こうした反応、このようなエセ識者だけじゃないところに、ことの根深さがある。

■ひょっこりはんに突き刺さる敵意

 もちろん私は桶川のひょっこりはんを庇うわけではまったくない。ただ、ドライブレコーダー画像を視聴する中で、どこかザラリとした違和感を感じたのも確かなのだ。
 ドライブレコーダーに記録された映像とドライバーの音声。ひょっこりはんが出てきた瞬間、次のように怒る。
「あぶねっ! バカやろ! こら!」
「ちっ、おいおまえ、邪魔だろ、なんだこいつ!」
 もちろんひょっこりはんが悪いには決まっている。それにしても、ドライブレコーダーに残されている著しい敵意には少々驚かざるを得ない。そして、その敵意はスタジオの温度とほぼ一致するわけだ。
 もうひとつ。
 こうした動画がネット上にアップされると、それに対して「こういうヤツは轢き殺せ」「ロードバイクの公道走行を禁止にしろ」などと、もっと激烈な敵意と悪意のコメントが浴びせられることだ。しかも「自転車全般」に話を拡げられて。
 つまり、こういうことが言える。
 自転車乗りは、我々が思っている以上に、好意を持たれていない。いや、ありていに言うと嫌われている。

■自転車ヘイトの理由

 これはこの10年ほどの傾向で、今やはっきりと分かる。
 たとえば21世紀に入ったばかりの頃は、自転車は明らかにポジティブなイメージを持たれていた。
 テレビや新聞で取りあげられる際にも「エコで健康的」「ますます自転車が盛んになればいいですね」という扱いだった。
 ところが、今は逆だ。
 テレビ、新聞に出てくる自転車は、多くは「迷惑自転車」というククリであり、今回の「桶川のひょっこりはん」なんてのは、その最も悪い典型例というわけなのだ。
 私が思うに、こうした自転車ヘイト(あえてヘイトと言ってしまおう)の理由は3つあると思う。
 ひとつは車道上のスポーツバイクのルール無視があまりに目に余るからだ。逆走する、信号を守らない、急に飛び出してくる。私だって腹が立つ。交通ルールを知らない、または知ってても守らないヤカラが多すぎる。公道に出る以上はルールを守れと言いたい。ここの部分は圧倒的に自転車が悪く、改善は喫緊の課題である。
 ふたつ目はいざ事故になったとき、自転車とクルマではクルマの方が過失割合が高く認定されがちだからだろう。
 これがドライバー側の嫌悪を生んでいるのではないか。私個人としては早急に認定基準を何とかしていただきたいと思っている。現在の「交通強者は相対的に交通弱者よりも責任が重い」というポリシーは、それはそれで分かるが、かなり行き過ぎだ。悪い自転車は悪い自転車として裁かれるべきだろう。

■ドライバー側の認識改善も

 そして3つ目。これに関しては、前者2つに比して、少々異質になるのだが、クルマを運転する側が「このところ自分の領域を侵されている」と感じていることだと思う。
「車道はクルマのものである」という抜きがたい意識。「自転車ブームか何だか知らないが、チャリンコが車道を走るんじゃないよ」という偏見だ。これが「自転車は邪魔」という無邪気(?)な言動に結びつく。
 だが、これに関しては、前提自体が違っている。自転車というものは、自転車専用道がないかぎり車道を走るものであり、邪魔にしてもらっては困る。こちらとしては、クルマの方が邪魔なのだ。
 昭和45年の道交法改正(自転車は指定歩道なら歩道を通ってもよろしいとした)からすでに半世紀。日本の道路行政は「自転車はとりあえず『何となく歩道』にしときましょうか」で済ませて、ここまでやってきた。
 だが時代は変わったのだ。自転車活用推進法も制定された。お互いがお互いを邪魔者扱いせず、基本は車道シェア。ここが基本だろう。
 桶川のひょっこりはんはもちろん迷惑野郎だが、彼を具材にして、見当違いの非難を自転車全般に浴びせるばかりでは、話は始まるまい。(八重洲出版「CYCLE SPORTS」2019年9月号)


【ヒキタ解釈のオススメ本(たまに非オススメあり)】

『逆説論理学』野崎昭弘著 中公新書

 前回の『詭弁論理学』の姉妹編。
 うーん、若干パワーダウン。というのか、俎上にあげるエピソードはこちらの方が有名なものが多いにもかかわらず「そりゃそうだわな」感が若干強い。不思議。
 前回の『詭弁』がオススメ度100とすると、今回の『逆説』は35程度。うーむ、野崎先生…。


【ヒキタ関連Kindle本】
「平成バブル物語 ~60年代生まれのための東京バブストーリー~」(田崎仁志著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07GWRJPZH/
「津波から自転車で逃げられるか」疋田智著・NPO自転車活用推進研究会編集
https://www.amazon.co.jp/dp/B07JCXPGGL

【ヒキタ最新刊】
「新・自転車“道交法”BOOK」自転車活用推進法が分かる! 木世(えい)出版社
https://www.amazon.co.jp/dp/4777946207
「電動アシスト自転車を使いつくす本」東京書籍
https://www.amazon.co.jp/dp/4487809878

【好評既刊本】
「自転車“道交法”BOOK」小林成基(NPO自活研)と共著 こやまけいこ:イラスト 木世(えい)出版社
「だって、自転車しかないじゃない」朝日文庫
「おやこで自転車 はじめてブック」疋田智監修 ぼちぼち自転車くらぶ著 子どもの未来社
「明るい自転車質問室」(ドロンジョーヌ恩田と共著)東京書籍
「自転車 困った時の即効お助けマニュアル」成美堂出版
「自転車ツーキニストの作法」SoftBank新書
「ものぐさ自転車の悦楽」マガジンハウス
「自転車会議!」(片山右京・勝間和代・今中大介・谷垣禎一と共著)PHP研究所
「自転車の安全鉄則」朝日新書
「今すぐ使えるクロスバイク図解マニュアル」大泉書店
「ロードバイクで歴史旅」木世(えい)出版社
「自転車をめぐる冒険」「同・誘惑」(ドロンジョーヌ恩田と共著)東京書籍
「それでも自転車に乗り続ける7つの理由」朝日新聞出版
「自転車生活の愉しみ」朝日新聞出版
「天下を獲り損ねた男たち(続・日本史の旅は自転車に限る!)」木世(えい)出版社
「自転車とろろん銭湯記」ハヤカワ文庫
 いずれも好評発売中。ネット内でのご注文はこちらにどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%83J%83%5E%83J%83i&url=search-alias%3Dstripbooks&field-keywords=%95D%93c%92q&x=0&y=0

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です