路上EV給電のどこがエコだ(怒)の1028号

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      路上EV給電のどこがエコだ(怒)の1028号

■路上で給電という絶望

 東京・代官山、大使館が並ぶセレブな通りで、路上EV給電の施設が稼働している。
 路上EV給電というのは、写真で見てのとおり、車道左端にパーキングチケットのような白線の囲いを作って「EV給電OK」という充電施設のこと。当該のクルマは給電している限り、路上駐車おとがめなしとなる。
 だが、もちろん車道の左端は自転車が通るスペースなわけで、私などはもうあきれかえる限りなのだが、これをゴリ押しして恥じないヤカラたちがいる。東京都である。
 私に言わせると、そもそもこうした施設自体に、まったく意味がない。意味がないどころかあからさまな害悪であり、都民に対するイヤガラセ、いや裏切りですらある。

■EV路上給電がダメな理由

 EV路上給電が許しがたい理由はいくつもあるが、まずひとつめが「なんのため?」という部分だ。
 EVを普及させようというのは、もちろん二酸化炭素を出さないエコビークルであることだろう。いや最近はそれすらアヤシいが、それはまあ今回はおいておこう。EVは「まあまあエコ」としておこうか。しかし、その「まあまあエコ」のために、自転車のスペースを潰すというのが分からない。
 EVと自転車のどちらがエコかといえば、誰がどう考えても、自転車だろう。完全無欠のエコビークルである自転車の邪魔をしてEV、ということになると、最初から「エコのため」というのがウソなんだな(笑)というのが丸わかりだ。

 次のダメ理由が安全性である。
 路上にこれを作ると明らかに自転車の安全が蔑ろにされる。写真を見れば分かるとおり、これがある限り(そして長々と給電している限り)自転車は車道側に膨らんで走らざるを得ない。それがどんなに危険なことか。EV給電車両は、要するに自転車乗りの命や安全性と引き換えに、チュウチュウ電気を吸っているのである。

 もちろんまだある。ガソリン給油と比較してのEV給電の時間だ。ガソリンの方が早くすむのはご承知の通り。EVは最低でも20分から30分かかる。その時間、公道を潰すのをOKとする矛盾。なぜ電気自動車ばかりがそんなに優遇されねばならないのか。ガソリンスタンドのような給電スタンドを作ればいいではないか。または自宅で給電すればいい。
 そればかりではない。じつはこの給電装置、構図としても完全に「準違法状態」にあるのだ。

■国交省はガイドラインを出している

 この給電施設を設置した主体は東京都である。ところが、国は社会実験の末、とっくに「こんなバカな真似はやめます」と言っているのだ。
 国土交通省道路局は、今年5月「電気自動車等用充電機器の道路上での設置に関するガイドライン」という文書を公表した。
 このガイドラインの2.1項には「充電スペースの標準的な構造、設置場所」というものが指定されており、歩道にくぼみを作り(ベイ型)そこに自転車専用通行帯を作ることとなっている。
 じつはこの項の素案には、当初「ストレート型」すなわち通常の路上にEV給電装置を置くという、今回の東京都の事例のようなものが併掲してあった。
 だが、国交省は「これではまずいな」と、それらを全削除したのである。この判断には国会の自転車議連が大いに関わっている。

■令和5年自転車議連

 自転車議連(自転車活用推進議員連盟=二階俊博会長)というのは超党派の国会議員でつくられた議員連盟で、自民党から共産党まで与野党問わずほぼ全党から議員が参加している。研究者やジャーナリストなども発言が一部許される非常にオープンな議連だ。
 その席で、このEV給電施設が取り上げられ「自転車の活用推進と真逆の取り組みであり、自転車議連としてなんとしても止める必要がある」との指摘がなされた。というか、何をかくそう指摘したのは、私だ(笑)。

 これに対して、自転車活用推進本部事務局長代理の国交省・久保田誉審議官は「省内でもきちっとご意見を受け止めながら、われわれも自転車活用推進という観点でしっかり調整している」と答えた。その上で議連の金子恭之幹事長は「パブコメにもかなりの反対意見があり、その通りだという認識である」と、ハッキリした対応を約束した。
 その結果が国交省のガイドライン改正なのである。この新ガイドラインにおいては、すべての図に自転車専用通行帯が描かれ、自転車に非常に配慮されたものになっている。ぜひ見てみていただきたい。

【電気自動車等用充電機器の道路上での設置に関するガイドライン】
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/guideline.pdf

■それなのに東京都

 それなのに、嗚呼それなのに、なのである。東京都、あからさまにガイドライン違反、明らかな自転車の安全利用への阻害である。このバカバカしい話を、いったい都はどんな資格をもって進めているのであろうか? 国交省はダメだつったのに東京都は平気な顔してやってます。って、これ、国として大丈夫なんだろうかといぶかしく思う。
 東京都によると社会実験と称して来年3月まで続けるとのことだが、とっくに国による社会実験なんて終わってる。

 おそらくこれも(太陽光パネルなどと同じく)東京都のゴリ押しエレキ化の一環なのだと思う。外苑でもそうだし、葛西臨海公園でもそうだ。小池都政はなぜそこまでエレキ化したいのか。これまで述べてきたように、理由はエコじゃない。都民の安全でもない。社会のスムーズネスでもない。では動機はどこに? 儲かる人はどこにいるのだろう。
 担当部局は、東京都の産業労働局 産業・エネルギー政策部 新エネルギー推進課だそうだ。ここまで完全無欠な都民に対する背信行為も少ない。ぜひ次のURLにご意見を。

【電気自動車充電器の公道設置に関するアンケート(代官山パーキングチケット)】
https://questant.jp/q/GK8MIX10

(初出:“Mobility Life”2023年7月号)

【ヒキタ解釈のオススメ本(たまに非オススメあり)】

「20世紀全記録 Chronik 1900-1986」 小松左京 堺屋太一 立花隆 編 講談社

 1万4210円もする大型百貨本。平均すると1月1ページ程度だが、特集ページが間に挟み込まれていて、興味深く読み込める。編者が小松、堺屋、立花と、いずれも蘊蓄オモシロおじさんたちなので、コダワリどころがなかなかいい。というより、私の趣味にドンピシャで合ってて気持ちいい。
 ふと気づくと時間がドンドン過ぎていく。

 しかしながら、残念なのは、誰もが気づくとおり、20世紀「全」記録とある割に、1986年で終わってるところだ。
 発行が1987年なので仕方がないのだが、うーん、このタイトルはさすがに「偽りあり」だぞ(笑)。


【ヒキタ関連Kindle本】
「津波から自転車で逃げられるか」疋田智著・NPO自転車活用推進研究会編集
https://www.amazon.co.jp/dp/B07JCXPGGL
「平成バブル物語 ~60年代生まれのための東京バブストーリー~」(田崎仁志著)
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【好評既刊本】
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「電動アシスト自転車を使いつくす本」東京書籍
https://www.amazon.co.jp/dp/4487809878
「自転車“道交法”BOOK」小林成基(NPO自活研)と共著 こやまけいこ:イラスト 木世(えい)出版社
「だって、自転車しかないじゃない」朝日文庫
「おやこで自転車 はじめてブック」疋田智監修 ぼちぼち自転車くらぶ著 子どもの未来社
「明るい自転車質問室」(ドロンジョーヌ恩田と共著)東京書籍
「自転車 困った時の即効お助けマニュアル」成美堂出版
「自転車ツーキニストの作法」SoftBank新書
「ものぐさ自転車の悦楽」マガジンハウス
「自転車会議!」(片山右京・勝間和代・今中大介・谷垣禎一と共著)PHP研究所
「自転車の安全鉄則」朝日新書
「今すぐ使えるクロスバイク図解マニュアル」大泉書店
「ロードバイクで歴史旅」木世(えい)出版社
「自転車をめぐる冒険」「同・誘惑」(ドロンジョーヌ恩田と共著)東京書籍
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